カテゴリ:劇場鑑賞( 140 )
   
紙屋悦子の青春
    2006年 09月 09日
【KBCシネマ】
原田知世、永瀬正敏の舞台挨拶がある初回の上映を観た。
劇場に着いた時はすでに開場後だったので、完売になっていないか心配だったのだが、意外にもまだ空席が結構あって助かった。上映直前にはさすがに満員になり、補助イスも出されていた。
これも意外なことに、先行上映されている東京などでは客の年齢層が相当高いと聞いていたのだが、ここではむしろ30代以下と思しき若い観客の姿の方が目立っていた。もっとも、これは舞台挨拶の効果であって、今後の上映では状況が変わるのかもしれないが。

映画はすばらしい出来だった。
この映画で描かれる戦争の影とは「乏しくなっていく食料」とか「帰りが遅い家族に対する不安感」といったもので、戦闘や空襲の流血シーンなどはまったく無いし、声高に「戦争反対」を叫ぶ映画でもないけれど、凡百の反戦映画などよりずっと、戦争の悲惨さを皮膚感覚に訴えかけてくる作品に仕上がっている。
役者も皆頑張っているが、どちらかといえば、主演の原田、永瀬よりも、脇を固める本上まなみ、小林薫、松岡俊介の芝居の方がより印象に残った。

b0004063_22591255.jpgとりわけ、本上まなみは凄く光っていた。彼女はこの映画のコメディリリーフ的な存在で、題材が題材だけに重く沈みがちな作品の雰囲気を彼女はずいぶんと救っていたように思う。実際、この映画のコミカルなシーン(場内が笑いで包まれる場面も結構ある)の多くは彼女が絡んでいる。また彼女は自分の思いを毅然と表明できる女性でもあり、原田が演じるヒロインとは対照的な役柄である。観客の気持ちを代弁してくれるキャラクターだと言ってもよい。特攻隊として沖縄に赴く松岡に対して、形式的な挨拶だけで別れようとする原田に「(本当の気持を伝えるために)行ってこんね!もう会うこともないんですよ」と諭す場面など、すべての観客は彼女への共感を禁じえないだろう。

ただ難点をあげるなら、老夫婦となった原田と永瀬が登場する現代のシーン。2人の禅問答のような会話が延々と続くのだが、これには正直退屈した。少なくとも、ここは少し短縮すべきではなかったか。「戦争で死んでいった人々の犠牲のうえに、現代の平和が築かれているのだ」という想いが、このシーンには込められていることは解るのだが。

上映後、舞台挨拶に登場した原田はロングヘアに黒のドレス、永瀬の方は何とポニーテール!といういでたちで、映画で演じた2人の姿とはあまりにギャップが大きかった..

紙屋悦子の青春@映画生活
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マッチポイント "Match Point"
    2006年 09月 03日
【KBCシネマ】
ウディ・アレンらしい小洒落た意匠に包まれているが、中身は昼メロにでもありがちな下世話なお話で、アレンのこれまでの作品からすれば、ちょっと意表を突かれた感じだ。
サスペンスとしてもまずまずの出来なのだが、この点、予告編でかなりネタばらししているのがマズいと思う。決して勘が良くない私でさえ、予告編を見た段階で、結末も含めておおよその展開は見当がついてしまったくらいだ。

しかし高等教育も受けていないテニスプレイヤーが、大企業に就職した途端、有能なビジネスマンとして頭角を現すというというのは、設定に無理がありはしないだろうか? 義父が社長という強力なコネがあるにせよ、「彼は実に優秀だ」という台詞は何度も登場するからね..これにはちょっと釈然としなかった。
スカーレット・ヨハンソンは今回も魅せてくれた。クールビューティーだと思っていた彼女が、深い仲になったとたん、嫉妬深く、感情的に喚き散らすような女に豹変するあたりの演技は、相当に迫力があった。

マッチポイント@映画生活

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やわらかい生活
    2006年 09月 03日
【KBCシネマ】
まったりと緩やかに流れる時間が心地よい。
何しろ、豊川悦司がカラオケでまるまる1曲歌うのを、ワンショットで撮っているような作品なのだ。
上映時間が2時間強あるので、「もっと短くまとめろ」という声もあると思うが、寺島しのぶ演じるヒロインが躁うつ病であったりと、内容的にはシビアなものを含んでいるので、この「まったり」さが無ければ、かなりキツい印象の作品になったと思う。
タイトルの『やわらかい生活』とは、「頑張らないで日々を生きていく」ということなのかな。躁うつ病の患者には、「頑張らなくていい」というアドバイスが何より重要なのだと聞いたことがある。ヒロインはこれを実践しようとしているのだけど、それは決して易しいことではないんだな、と映画を観て思った。

主演の寺島しのぶ、豊川悦司はどちらも良い。(2人の博多弁はもうちょっと頑張って欲しかったが) ただ今回、豊川が演じた「優しい男」は、いかにも女性が考えた「理想の男性像」といった感じで、男である自分から見るとリアルさ、生々しさが今ひとつ欠けていた気がする。そういえば『ヴァイブレータ』の時の大森南朋もそうだった。(確かどちらも原作は女性作家の作品だよね?)同じ意味で、女性の視点では寺島しのぶはどう映ったんだろうか?ぜひ今度、知人に聞いてみたい。

蒲田は「粋でない下町」なのか..いいね。これまでの私にとって、たまに上京した時に、都心と羽田空港との往復で通過する街でしかないのだけど。(あの踏み切り付近の光景は車窓から眺めた記憶がある) いつか機会があれば、途中下車して散策してみたいな。

やわらかい生活@映画生活

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ユナイテッド93 "United 93"
    2006年 08月 31日
【Tジョイ久留米】
あの9.11同時多発テロの一つ、ユナイテッド航空93便の事件はこれまで幾度となくTVで取り上げられてきたし、つい最近もディスカバリー・チャンネルで綿密に作られたドキュメンタリーを見たばかり。映画を観る前から事件の概要は頭に入っていた。

そんな私にとって、映画のウリである極限状態に置かれた機内の乗客のドラマは、(確かによくできているが)すでに語りつくされており、正直なところ新鮮味は感じられなかった。より印象に残ったのは、事件に対処する側である航空管制官や軍関係者の姿の方だ。
最初にハイジャック発生の一報が入った時は、「ハイジャック?ずいぶん久しぶりだな」と何とも呑気な反応だったのが、しだいに事件の全貌が露になるにしたがって、急激に緊張感が高まり、ついにはパニックへ陥っていく過程が非常にリアルに、かつわかりやすく描かれている。特にCNNの映像が管制室のスクリーンに映し出された瞬間、その場の全員が凍りつく場面は忘れがたい。しかし危機管理のプロたちでさえ、テレビの情報にこうも依存しているとは驚いた。(映画の中で、「CNNによれば..」という台詞は何度も出てくる)

さらに驚きなのは、こうした当事者の役の多くを(実在の)本人自身が演じていることだ。エンドクレジットで"AS HIMSELF"の文字がズラリと並ぶ様は、ある意味壮観だった。日本では、ちょっと考えられないだろう。
中でも一番目立っていたのは、被害拡大を防止するため、全米の空域を封鎖し、飛行中の航空機はすべて即座に着陸させた(凄い決断力!)連邦航空局のベン・スライニーだが、彼の芝居はあまりに堂に入っており、とても素人には見えない。いろんな意味で凄い人だ。

ユナイテッド93@映画生活

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トランスアメリカ "Transamerica"
    2006年 08月 19日
【KBCシネマ】
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ちょっとキワモノっぽい題材ながら、爽やかな感動が後に残るのは「ヒロイン役」フェリシティ・ハフマンの演技に負うところ大でしょう。トランスセクシュアルという難役を、繊細な感情表現(特にぎこちなさが絶妙!)でリアリティたっぷりに演じきったのは見事としか言いようがありません。
正直、パッと見はかなり気色悪いものがあり、最初は引いて見ていたんですが、「彼女」の(外見からは意外な)勇気や品性にだんだんと魅了されていきました。旅を通して息子が彼女に抱く感情の変化にも納得です。
この点、ロードムービーとしては定石どおりに手堅く描いた映画だと言えるかもしれません。

旅の途中で出会う親切なカウボーイも印象的でした。「誰にでも人に言えない秘密の一つぐらいあるさ」 ありふれた台詞ではありますが、懐が深い彼からこう言われると、なんとも含蓄ある言葉に感じられます。ただ、もっと話に絡んでくるもんだと思ってたら、あっさり退場。出番が少なかったのは残念でした。

エンディングにかかるドリー・パートンの歌も良かった。映画がポジティブな余韻を残して終わるのに、この歌はかなり貢献していると思います。

トランスアメリカ@映画生活
幸せのポートレート "The Family Stone"
    2006年 08月 14日
【KBCシネマ】
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なかなかよくできたホームドラマ。
全編コミカルでありながら、ハッとするようなシリアスな場面を随所に配置する、という作りに目新しさはありませんが、キャストが芸達者揃いということもあり、それなりに感動させられます。

サラ・ジェシカ・パーカー演じるヒロインは、やたら神経質でプライドの高さは人一倍。かなりイヤな女として登場します。そんな彼女も婚約者の家族に気に入られようと、彼女なりに努力して言動に気を配るのだけれど、それがことごとく裏目に出てしまう。ここのくだりは、人付き合いが不器用だと自覚している人(程度の差はあれ、自分も含めてそういう人は多いだろう)には痛いシーンとして、特に印象に残ります。
ただ、決定的に壊れてしまったかと思われたサラと婚約者一家の人間関係が、「あの程度のこと」で簡単に修復されるのは説得力なかったな。個人的にドラマのハイライトだと思っていた部分なので、この点は非常に残念。

もう一つ不満を言えば、サラの妹役クレア・デインズの存在が余計だったこと。映画の中盤からの登場で、「ちょっとした脇役だな」と思っていると、最後にはサラとどちらがヒロインなのか解らなくなるほどウェイトが大きくなっていきます。これは作品のバランスを壊している気がするし、作劇としても不自然だと思う。あれでは、サラの婚約者にしてもずいぶん酷い奴ということになってしまうし..

あと最初の方で、一家の末弟が「アリガトウ」と日本語で返事するシーンがあったんだけども、あれはどういう設定だったのかな?ちょっと気になります。

幸せのポートレート@映画生活
ゆれる
    2006年 08月 07日
【シネリーブル博多駅】
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対照的な兄弟(前作では兄妹だったが)の関係性を鋭く描き出してみせたという意味で、この監督の前作『蛇イチゴ』と通じる部分が多々ある作品です。しかし一貫してコミカルだった前作とは違い、今回は2人の内面の暗部を「これでもか」とばかり容赦なく抉り出していて、正直ちょっとキツい部分もありました。それにしても、微妙な心のゆれを僅かな表情の変化や動作で表現してみせた、香川照之とオダギリ・ジョーの演技は特筆ものです。
演出面では、映画のあちこちに印象的なショットがさりげなく挿入されている点も非凡だと感じました。兄のズボンに滴り落ちるビール、ドロリとした種が溢れ出したトマトの断面、料理に出された魚の目玉..(オダギリ演じる弟はこの目玉に何を見たのだろう?)

たまたま前日見ていたTV番組「行列のできる法律相談所」で、映画上映中に携帯電話の着信音で鑑賞を妨げられた場合、加害者?に1人あたり500円程度の賠償請求が可能だという(弁護士の)見解を聞いたんですが、実はこの映画の上映中にもあったんです。それも緊迫した法廷シーンで。「城島です。頑張っていこ~、城島です..」 念のため説明すると、この「城島」とは元ホークスで現在シアトル在住の某野球選手のこと。もう雰囲気ぶち壊しもいいとこ。500円といわず、入場料全額を請求したくなったぞ!(怒)

ゆれる@映画生活
フーリガン "Green Street Hooligans"
    2006年 06月 25日
【シネリーブル博多駅】
良くも悪くも単純明快な映画。
ひ弱な大学生だったイライジャ・ウッドが英国に渡り、現地のフーリンガンたちに揉まれるうちに、すっかりマッチョになっちゃって、アメリカに帰って昔の恨みを晴らしましたとさ..というだけのお話。劇中の台詞にも登場した「カラテ・キッド」(邦題『ベスト・キッド』)とほぼ同じプロットだと言ってよい。
私は面白かった。
映画で描かれるフーリガンの実態(多少は美化されている気がする)は興味深かったし、見るからに弱々しかったイライジャ・ウッドが暴力的衝動に目覚める過程にも説得力がありました。
しかし終盤の展開には浪花節的なものを感じたし、ならず者たちの精神構造って洋の東西を問わず、世界共通なのかな..

あと思ったことだけど、イギリスでプレイしている中田や稲本は大変だと思う。きっと、敵サポーターからは人種差別も露骨なブーイングを受けてるんだろうなあ。
間宮兄弟
    2006年 06月 24日
【シネリーブル博多駅】
周囲が皆揃って面白いと薦めるもので観てみたんだけど、正直、私にはイマイチな出来の作品でした。
全体的に(特に中盤まで)次々とネタをつなぎ合せたという感じの構成で、ストーリー性が希薄だと思います。これは例えば(似ていると指摘する人が多かった)『かもめ食堂』も似たようなものだけど、こちらは兄弟や常盤貴子の演技が大仰な分、作りすぎという印象が強くて入り込めませんでした。そもそも『かもめ食堂』の小林聡美には等身大の人間としてのリアリティを感じることができた。で、この兄弟の場合はどうだろう?私にはどうしても不自然だという感が拭えません。

それでも終盤の展開はやや面白かった。特にiPod絡みのネタは笑えてかつ痛い、よくできたエピソードでした。それにしても「また兄弟2人で静かに生きていこう」と誓ったはずなのに、今度は「おでんパーティー」ってか!? まったく懲りない奴らです(笑)
インサイド・マン "Inside Man"
    2006年 06月 13日
【ソラリアシネマ】
これは面白かった。
実は前売り券を忘れたまま映画館に行くというドジを犯してしまったので、その前売り券は友人に転売しようと思っていたが、映画を観て気が変わった。もう一度観る!映画で描かれる完全犯罪のトリックは相当に巧妙だけど、少々穴もあるように見受けられる。その辺りも再検証したいと思います。

クライブ・オーウェン演じる銀行強盗の正体や動機が明らかにされないという点でマイナス評価をする人が多いようですが、私はこれで正解だと思う。これはクライブのほか、デンゼル・ワシントン、ジョディ・フォスターが演じる3人の切れ者の”出し抜き合い”をとことん楽しむべき映画。彼らの演技アンサンブルによって醸成されたクールなムードに妙な因果話は似合わない。

音楽も素晴らしい。冒頭とエンディングに流れる"Chaiyya Chaiyya"のビートはずっと尾を引いて頭に残ります。ニューヨークが舞台の犯罪アクションものに「ボリウッド映画」のテーマ曲を流用するなんて、凡人には及びもつかないアイデアですが、スパイク・リーの音楽センス、恐るべし..というほかありません。