麦の穂をゆらす風 "The Wind That Shakes the Barley"
    2006年 11月 19日
【シネテリエ天神】
20世紀初頭のアイルランド、医師を志すデミアンはロンドンへ旅立とうとしていた。しかしその直前、友人の1人が英国から送り込まれた武装警察隊からの尋問中に殺害されてしまう。彼は医師となる道を捨て、兄テディたちと共に義勇軍に参加し、英国からの独立を目指す戦いに身を投じることを決意する。義勇軍の激しいゲリラ戦は各地で英国軍を苦しめ、ついに英国は停戦を申し入れ、戦争は終結する。しかし、締結された講和条約の是非をめぐってアイルランド国内は支持派と反対派に分裂、やがて内戦へと発展してしまう。そしてテディとデミアンの兄弟も..

宣伝で使われている識者のコメントで「どんな大義があろうと、武力行使は絶対にダメだ」といったものがあったが、こんな紋切り型の感想文にはウンザリしてしまう。確かに、こうした「戦争は悲惨」、「戦争反対!」という切り口は解りやすくて、宣伝的には歓迎されるのだろう。ではしかし、イギリス支配下の悲惨な状況の中で、主人公たちに他の選択肢があったのだろうか? ガンジーのように非暴力を貫いていれば、その後のアイルランドの歴史は明るい方向に変わっていたのだろうか?

これは非常に難しい問題だ。劇中で主人公も「多大な犠牲を払ってまで、この戦いにそんな価値はあるのだろうか」と自問している。彼はもともと医師志望であり、そんな自分が戦争とはいえ、人の命を奪うことに対する葛藤もあっただろう。そんな彼だが、母国が蹂躙されるのを目の当りにして、結局は銃を手にするしかなかった。自分の夢を犠牲にしてまでも。

ケン・ローチに「アイルランドの悲劇」を描こうとする意図は、実は無かったのかもしれない。映画のラストで、「その後の歴史」(例えばアイルランドの独立、IRA暫定派の武装解除など)に一切触れられなかったのは、私には象徴的に思えた。この映画で描かれた悲劇は、中東やアフリカなど現在でも存在するものだ。特に私たち日本人にとって、戦争は絶対悪であり、その戦争をしている人間は悪人だと決めつけがちだが、そんな彼らも彼らなりの大義を持っている。その事は理解しておく必要があるのではないだろうか。この映画を観て、そんなことを考えた。

麦の穂をゆらす風@映画生活
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by coolkoro | 2006-11-19 22:45 | 劇場鑑賞